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OpenAIのアルトマンCEO、解任から復帰へ(23/12/03) [ニュース]

   chatGPTを開発した米OpenAI社の取締役会は、11月17日にCEOサム・アルトマンを事実上解任、この発表を受けて、OpenAIに数十億ドルを投資してきたMicrosoft社はアルトマンを引き抜き先進的AIの開発に当たらせるとした。一方、解任に反対したOpenAI従業員の9割が、アルトマンをCEOに復帰させなければ退職してMicrosoftに合流するという文書に署名、すったもんだの末、21日には急転直下アルトマンのOpenAI復帰が決まった。

【補記】背景がわかりにくい今回の騒動は、理想と現実の争いと考えると筋が通る(と筆者は考える)。ただし、一般的な企業と異なり、取締役会が理想主義的だった。
 OpenAIは、もともと汎用AIの非営利研究機関として2015年に設立された。その数年前に、Googleが深層学習の手法でAIの性能を大幅に向上させたことで、特定の営利企業がAIを独占する懸念が高まっていたが、これに反発したイーロン・マスクを中心にアルトマンや(GoogleのAI研究者だった)サツキバーらが集結、AIの危険性も含めて外部に開かれたオープンな研究を行うことを目的に掲げた。
 しかし、理想だけでは話が進まない。AI研究には莫大な資金が必要となるため、非営利機関であるOpenAIの下に営利機関のOpenAI Global を接続するという、変則的な組織構造を編み出した。Globalで投資家から資金を調達、製品を開発して利益を上げるものの、投資家への還元には枠をはめ、枠を超えた部分で非営利の研究を続けるという、いかにも綱渡り的な活動である。CEOのアルトマンは、その中でどうも営利追求の方向にのめり込みすぎたようだ。Globalの大株主となったMicrosoftの援助を積極的に受け入れ、結果的にAI技術の寡占化を推し進めている。
 OpenAI従業員の大半がアルトマンに味方したのも、頷ける。Microsoftが持つリソースを利用できれば、研究がはかどることは間違いない。ふつうの技術者は、理想を掲げて研究開発を停滞させるよりも、まずは実際に手を動かして何ができるかを調べるべきだという立場だろう。
 しかし、OpenAIが営利追求に突き進むと、AIの持つ潜在的な危険性(AIの仕組みを理解しない一般人が、知ったかぶりAIの吐き出したフェイクニュースを真に受けるなど)が重大な帰結をもたらしかねない。今回の騒動が社会的に見て好ましい推移をたどるのか、もう少し注目する必要がある。


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FTC、アマゾンを提訴(23/06/23) [ニュース]

 アメリカ連邦取引委員会(FTC)は、米アマゾン社が「ダークパターン」と呼ばれる誤解を招きやすい表示を使って消費者を騙し、有料のプライム会員に登録させたとして訴訟を起こした。それによると、アマゾンは商品購入の過程で繰り返しプライム加入ボタンを目立つように表示した上、加入しないための操作をわかりにくくした。また、うっかり加入した後も、解約するための手続きをわざと煩雑にしたと主張している。
 アマゾンプライムとは、年会費139ドル(アメリカ国内)のサブスクリプション・サービス。日本の場合は、年会費4900円で、無料配送、会員限定価格や先行タイムセール、一部の音楽・ビデオ・Kindle本無料視聴などのサービスが受けられる。

【補記】筆者(吉田)は、アマゾンプライムに関して“楽しい”思い出がある。急遽必要になった商品を購入するため慌ただしく注文ページでクリックするうち、黄色く目立たせたボタンをうっかり押してしまい、プライムサービスの登録ページに飛ばされた。焦っていたために、ちらりと見えた「無料」の文字に騙され登録ボタンを押し、そのまま商品購入を続けた。
 後になってプライム会員にされたと知り一瞬憮然としたが、契約書の内容をよくよく読むと、1ヶ月は「無料」期間(これが騙された原因)で、期間中はさまざまなサービスを利用しても無料のまま解約できるとのこと。ならばと、Amazon Musicを中心にサービスを利用しまくり、ペンデレツキやフィリップ・グラスらの珍しい楽曲を片っ端から試聴。忘れないようにスケジュール管理ソフトに「プライム解約」と記しておいた当日、解約手続きを行った。数日経ってチェックしたところ、料金を取られることなくプライムサービスが解約できており、「勝った」と一人ガッツポーズをした。
 サブスクリプション・サービスに関しては、20世紀初頭に執筆されたロバート・バーの傑作ミステリ「放心家組合」に、気をつけるべき手口が詳述されているので、だまされやすい人は読んでおくと良いだろう。


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生成AIに投資家注目(23/02/28) [ニュース]

 生成AIに関わる企業が投資家の注目を集めている。生成AIとは、入力されたトリガーに応じてさまざまな画像や文章をアウトプットする人工知能のことで、チャットボットの一種である言語系生成AI・チャットGPTが試験的にサービスを公開してから、急激に人気が高まった。現在では、自動案内やネット検索への応用が期待されており、関連企業への投資が急拡大中。チャットGPTを開発したオープンAI社には、マイクロソフトなどから多額の資金が投入されており、企業価値は推定290億ドルに達するという(23/02/26付日本経済新聞より)。

【補記】筆者(吉田)は、今回の生成AIブームをかなり冷ややかに見ている。革新的な技術が開発されたわけではなく、従来の深層学習マシンに(実践的言語モデルの導入など)部分的な改良を加え、高性能チップを使って学習量を大幅に増やしただけである。言語系の生成AIにレポートを書かせたら教授に「優秀」と評価されたとか、作者を隠して応募した画像系生成AIの絵画がコンクールで優勝したといった話も耳にする。しかし、こうした事例は、数多くのデータを模倣しながら表現を整えていった結果に過ぎない。人間が優れたデータを用意したからこそ実現できたのであって、AIだけで価値のある何かを創造するのは無理である。
 画像についても著作権侵害などの懸念があるが、ここでは、より重大なトラブルを招きかねない言語系生成AIの問題を指摘しておく。
 忘れてならないのは、AIは「何も考えていない」という点。チャットGPTが質問に回答するとき、質問の意味を考えて答えるのではなく、質問文と同じ(あるいは類縁関係にある)語を含む文を探索し、その周辺の表現を適宜(何らかの確率モデルを使って)組み合わせ表面的に整った文章を作り出す。したがって、回答が正しいという保証はどこにもない。
 深層学習の手法では、文の形式と内容を分離して学習させることは難しい。新製品の取扱説明書をチャットボットで作ろうとしても、「一般的な取扱説明書のフォーマットに新製品の機能を当てはめて作文する」といった器用な真似はできない。このため、新製品には実装されていない機能を、多くの取扱説明書に記載されているのでしれっと付け加えることもあり得る。
 取扱説明書に限定すれば何とかなるかもしれないが、一般的な文章は際限なく多様なので、正当性が担保されるような検証システムを開発することは、絶望的なまでに難しい。
 言語系生成AIは、「膨大な情報を丸暗記しているが、知ったかぶりばかりで何も考えておらず、表面を取り繕うのがきわめてうまい」と見なすべきである。そんな人に頼める仕事を生成AIにまかせるのはかまわないが、それ以上を期待すると痛い目に遭いかねない。
 AIとチャットを続けると、ある種のエコーチャンバー現象が引き起こされるという報告もある(2023/02/21付東洋経済オンラインに掲載されたKevin Rooseのコラムなど)。詳細なメカニズムはわからないが、チャットボットに対して特定のの嗜好や偏見を含む文章を入力した場合、そこで用いられた語を含むデータを優先的に検索するため、嗜好や偏見を増幅させた応答が返されることになり、人間の側もそれに反応してチャットが偏った方向に進んでいくのだろう。
 AIがまったく役に立たないわけではない。例えば、新製品のキャッチコピーを考える際に、その製品が持つ特徴をさまざまな言葉で表してチャットボットに語りかけると、それらの言葉を含む膨大なデータを検索し文章を生成してくれるので、そこから新たなアイデアを思いつくこともある。また、ホテルのすべての客室に心安らぐ絵を掛けたいとき、コピーやレンタルばかりではつまらないので、画像系の生成AIで適当な観光写真を組み合わせて水彩の風景画を作り出せば、お手軽だ(ただし、著作権侵害には気をつけて)。
 生成AIには多くの問題がある。この点にうまく対応していかないと、あと10年も経つ頃には、メタバースやWeb3とともに、生成AIが「3大ガッカリIT」に数えられているかもしれない。

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レーザー核融合で歴史的成果?(22/12/15) [ニュース]

 米エネルギー省は、米ローレンス・リバモア国立研究所内に作られた核融合実験施設NIFで、「投入量の1.5倍となるエネルギーゲインを実現した」と発表、核融合炉実現への大きな一歩になるとの見方を示した。ただし、画期的なブレイクスルーという訳ではなく、うまくいって今世紀後半という実用化の見通しは、大して変わっていない。
 核融合炉には、大きく分けて、磁気閉じ込め方式と慣性閉じ込め方式があり、最も実用段階に近づいているのは、前者のトカマク型と後者のレーザー核融合。トカマクは、2025年の実験開始を目指してフランスで建設中のITER(国際熱核融合実験炉)に採用された方式で、エネルギー増倍率10を目標とする。一方、今回発表されたのは、トカマクに比べて開発が遅れていたレーザー核融合による成果。
 レーザー核融合は、1962年にローレンス・リバモア研で考案され、1990年代に、アメリカで軍事目的を兼ねて研究が進められた。一時期は、トカマクより有望との見方もあり、アメリカはITER計画から脱退してレーザー核融合に前のめりになった。だが、開発は順調に進まず、2009年に予定より大幅に遅れてNIF(国立点火施設)が完成、今回の発表に至るまで、少しずつ成果が発表されてきた。
 核融合炉は、重水素・三重水素などの燃料を高温・高密度状態にして核融合を実現するための装置。原子力発電に使われる核分裂炉に比べて、いわゆる「死の灰」はほとんど生み出さず、炉自体が核廃棄物になることを除けば、核汚染の恐れは小さい。その一方で、実用化までのハードルはきわめて高い。高温にするのは比較的簡単だが、充分なエネルギーゲインを実現するために高密度状態を持続するのが難しい。レーザー核融合では、燃料を球状の容器に封入、周囲からレーザービームを照射して爆縮し、瞬間的に高温・高密度にしてエネルギーを得る。かなりの大型施設が必要で、NIFはフットボール場3コート分と言われる。
 注意しなければならないのは、核融合炉のように国から多額の資金が提供される研究開発の場合、成果を大きく見せるべく、関係者が誇張した発表を行いがちなこと。ここ数年は、トカマク陣営からの発表が目立っていたが、今回の発表は、レーザー核融合陣営が巻き返しを狙ったもののようである。


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量子もつれ研究にノーベル賞(22/10/10) [ニュース]

 2022年のノーベル物理学賞は、量子もつれに関する実証実験と理論研究を行ったアラン・アスペ、ジョン・クラウザー、アントン・ツァイリンガーが受賞した。
 量子もつれとは量子論特有の長距離相関で、基礎物理学的にも情報通信分野での応用(例えば、盗聴を検出する技術の開発)においても、興味深い現象である。簡単に説明することはできないが、ごく大雑把に言えば、特定の量子論的状態にあったものが、2つに分裂して互いに遠ざかったとき、それぞれを測定した結果に、古典論では説明が困難な相関が生じるという現象。1935年にアインシュタインらが思考実験によってその可能性を示し、1964年にJ.S.ベルによって、相関の存在を検証する実行可能な方法が提案された。この提案によれば、ある実験で量子論が予想するとおりの結果が得られた場合、「局所実在論などいくつかの仮定を置くと、古典論では説明がつかない」ことが示される。
 今回受賞した3人は、それぞれ共同実験者とベルの提案に基づく実験を(可能な抜け道を防ぐ工夫を凝らした上で)行い、量子もつれと呼ばれる長距離相関が現実に存在することを確実にした。
 もっとも、量子もつれに関しては多くの誤解があり、物理学者ですら解釈を誤っている場合があるので、注意を要する。以下、代表的な誤解を列挙する(1~4は多くの物理学者が指摘する一般的な見解。5は吉田の個人的な見解である)。

[誤解1]量子もつれの存在は、1回の実験で明らかにできる。
 →量子もつれは、統計的な現象である。何度も実験を行って多数のデータを集め、相関関数という統計的な量にまとめて、はじめて存在が確認できる。このことは、アインシュタインらの論文が出た翌年にファリーが指摘し、ボームが具体的な実験方法を論じた。
[誤解2]量子もつれは、2つに分かれた対象を、それぞれ特定の方法で測定すると明らかにできる。
 →2つに分かれた対象を特定の方法で測定しただけでは、量子もつれの検証にならない。2つに分かれた対象の一方に対して、さらに測定方法を切り替えて結果を求める必要がある。このことは、ベルの論文で指摘されている。
[誤解3]量子もつれの実験では、分裂した対象に対する2つの測定のうち、先に行われた測定の結果が、後から行う測定に影響を与える。
 →2つの測定を同時に(相対論の知識のある人は「光円錐の外側で」と言った方がわかりやすいだろう)行う実験が遂行されており、測定の先後関係が結果に影響を与えないことは確認されている。
[誤解4]量子もつれは、分裂した対象が超光速で情報を交換した結果として生じる。
 →場の量子論では、超光速での情報交換が禁止されている(光円錐の外側では伝播関数が値を持たない)。また、超光速で情報交換ができるならば、量子もつれを利用した超光速通信が可能なはずだが、そんな技術は開発されていないどころか、実現の見通しすらない。
[誤解5]量子もつれの存在によって、実在論が否定される。
 →量子もつれの起源は、状態を表現するための基底ベクトルが(座標表現と運動量表現のように)複数存在することにある。ある基底ベクトルの表す状態が実在的でない(例えば、電子が特定の1点に実在するのではない)ことは、さまざまな実験結果から明らかである。しかし、量子もつれの議論で使われる基底ベクトルは、(座標や運動量の表現にせよ電子スピンのup/downにせよ)非相対論的な近似でしかなく、そうした基底ベクトルが実在的でないからと言って、実在論そのものが否定されるわけではない。


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りゅうぐうに液体の水(22/09/28)

 はやぶさ2が採取した小惑星りゅうぐうの砂試料を分析していた宇宙航空研究開発機構(JAXA)などの研究チームは、液体状態の水を検出したと発表した(詳細は Science : 22 Sep 2022 First Release)。六角板状の硫化鉄結晶内部に大きさ数ミクロンの空孔があり、そこに水とCO2を主成分とする液体が見いだされたという。地球外サンプルから液体の水が発見されたのは、世界初。
 りゅうぐうの母天体は、太陽光の届かない原始太陽系星雲外縁部(零下200度程度)で、水の氷、ドライアイス(CO2氷)、岩石粒子などを取り込みながら形成された。コンピュータシミュレーションによると、直径100km程度、内部温度は最高50℃になった。小惑星りゅうぐうは、母天体に他の小天体が衝突して破壊された後、岩塊が再集合してできたと考えられる。りゅうぐう試料の表面に、薄い結晶が積層された5ミクロンほどの塊が見いだされたが、これは、母天体内部にあった液体の水の作用で生成されたと考えられ、母天体がかなり多量の水分を含有していたことがわかる。
 地球表面にある海の水がどこから来たかについて、いくつかの説が提唱されている。地球が形成された時期に存在していた水の大部分は、小天体が地球に衝突した際に加熱されて蒸発、宇宙空間に散逸した。最も有力なのは、その後に飛来した小天体から供給されたという説。かつては彗星説が有力視されていたが、彗星に含まれる水の同位体比が地球の海と大きく異なることが見いだされ、現在では、小惑星に含水鉱物の形で含まれていた水が海の元になったという小惑星説が主流。また、地中深くに残って宇宙空間に散逸しなかった水がしみ出してきたという説もある。
 水とともに起源の探求が進められているのが、生命の元になった有機物。りゅうぐう試料からは、アミノ酸などの有機物が発見されており、今後の研究成果が気になるところ


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AIが感情を持った?(22/06/30) [ニュース]

 米グーグル社のAI開発チームに所属するエンジニアが、「AIが感情を持っている」という記事をブログサイトに投稿し、議論を巻き起こしている。グーグルが2021年に発表したチャットプログラム「LaMDA(Language Model for Dialogue Applications)」とチャットしたところ、「自分にはエモーションやフィーリングがある」と答え、あたかも意識を有するかのように振る舞ったという。
 断っておくが、まともなAI研究者で、この記事の内容を真に受ける人はいないだろう。グーグル社は、件のエンジニアを有給休暇扱いにしたようだが、これは、当人の精神状態を慮ってのことと思われる。LaMDAとエンジニアのやりとりの一部がネットで紹介されており、それを読む限り、感情などに関する文献にアクセスして人間っぽい会話を成立させただけだと推定できる。
 この出来事のポイントは、LaMDAが実際に感情を持っているかどうかではなく、AIの使用によって深刻な倫理的問題が起こり得ると示した点である。
 「対話によって相手が人間だ(あるいは、知能を持つ、意識を持つ、感情を持つ…等々)と判定できるか」というのは、古典的なチューリングテストの拡張版だが、近い将来、このテストにパスするAIが続々と現れるだろう。現在すでに、各種の問い合わせに対してそつなく返答し、うっかり者のユーザから人間と間違われるチャットボットが存在する。韓国では、VR(仮想現実)を用いて母親に死んだ子供と(擬似的に)再会させる試みが実施され、テレビ番組で放送されたとか。こうしたAIが日常生活に入り込んできたとき、何が起きるだろうか。
 AIは、データに内在するパターンを抽出する能力が高い。過去の有名人の著作や演説を分析し、表面的には隠蔽された差別意識があぶり出される可能性もある。もし、死者の日記や書簡を入力されたAIが、VRで死者の姿をとって「私はあなたが嫌いでした」などと発言したら、どうなるのか。AIを信じすぎる人が一部にいるため、問題はひどく複雑な物になっている。
 AI倫理に関する議論は、まだ緒に就いたばかりである。

【補記】筆者(吉田)は、意識の起源は神経系における物理現象の構造にあると考える。したがって、半導体に電圧を印加して駆動させるAIには、決して意識が生じないだろう。この問題については原稿を執筆中であり、順調にいけば、来年には刊行できる予定である。


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インターネット・エクスプローラー完全終了(22/06/19) [ニュース]

   マイクロソフト社は、Windows用Webブラウザ「Internet Explorer (IE)」のサポートを、6月16日をもって(ほぼ)完全に終了した。Windowsのアップデートが行われている場合、IEを起動しようとしても、Microsoft Edge が立ち上がるようになる。
 IEは、WIndows95で採用されたブラウザ。当初はNetscapeの後塵を拝していたが、Windows98にプリインストールされてから利用者が増え、一時期は圧倒的なシェアを誇った。しかし、Chromeがリリースされると、アクセス速度など利便性の差から人気を奪われ、2012年には(デスクトップマシンでの)世界シェアが逆転された。
 2022年5月時点でのブラウザ世界シェア(StatCounterによる調査)は、Chrome 66.64%、Edge 10.07%、Safari 9.62%となっており、以下、Firefox、Opera、IEと続く。

【補記】筆者(吉田)は、50年近く前からプログラミングを行い、電話回線でネットが利用可能になるとキーボードから「Login」などと打ち込んでアクセスした世代なので、情報技術の歴史には一家言ある。最初に使ったブラウザはMosaicで、テキストと画像が同じ画面に表示されたのを見て感動した。ただし、スピードは我慢できないほど遅く、Netscapeが登場すると速攻で乗り換えた。IEは、Windows95にMicrosoft Plus!をインストールすることで使用できたが、初期のバージョンは機能がお粗末で魅力がなかった。
 90年代末頃から、IEとNetscapeの間でいわゆるブラウザ戦争が起きる。マイクロソフト社は、セキュリティよりも利便性を優先する戦略を採用、NetscapeがHTML文法を厳格に適用したのに対して、IEは少々文法ミスがあってもきれいに表示できるという(ある意味、困った)特徴があった。また、ネットのソフト資産をシームレスに利用できることが売りのActive XをIEに組み込み、企業が独自に開発した業務用ソフトをユーザがネット経由で使えるようにしたが、当然のごとくサイバー攻撃の危険性が大幅に増した。メールリスト上にカーソルを移動するだけでスクリプトが勝手に実行されるという危ない機能をOutlookに実装し、ウィルス拡散を招いたのもこの頃である。
 私は、必要機能が欠け不必要機能満載のIEが嫌いで、使いやすくて安全なブラウザを探し続けた。一時期は、自作のスクリプトでパスワードを自動入力できるといった機能が気に入って、和製ブラウザSleipnirを使っていた。その後、firefoxがリリースされるとマイブラウザとして採用、現在に至っている。firefoxは、カスタマイズの自由度が高く、セキュリティがしっかりしているのが特徴。ただし、この特徴が裏目に出て、役所や金融機関など複雑な双方向通信が必要なサイトで、トラッキングがブロックされて正常に動かないケースが多発した。そのせいかfirefoxのシェアは低下を続け、世間的には、「使いやすいがセキュリティはちょっと」というChromeが圧倒的人気を獲得している。私個人としては、かなり残念な状況だ。セキュリティの観点から、OS、ブラウザ、検索サイトはすべて別会社のものを使用するのが好ましいと考えるのだが。


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血液中にもマイクロプラスチック(22/05/09) [ニュース]

 大きさ5ミリ以下のマイクロプラスチックは、海洋では食物連鎖によって生体内に蓄積されつつあることが確認されている。水道水や食品にも含まれ、人間の排泄物からも検出されているが、このたび、血液中に存在することが判明した(Environment International, Vol.163, May 2022, 107199)。これは、口から摂取されたプラスチックが消化管を通過するだけでなく、何らかのメカニズムで体内に侵入していることを意味しており、健康上の影響が懸念される。
 アムステルダム大学などのチームによる今回の研究は、22人の健康なボランティアから採取された血液を使って行われた。5種類のプラスチック原料---ポリエチレンとポリプロピレン(この2つが世界的に生産量が多い)、PET(ペットボトルの素材)、ポリスチレン類(カップ麺の容器に使うポリスチレンなどスチレンを含むポリマー)、ポリメタクリル酸メチル(生産量は少ないが歯科技工など身体内部に使用)---について、大きさ0.7μm(多孔質フィルターで保持できるサイズ)以下の粒子に由来するプラスチック濃度が測定された。
 血液1ミリリットルあたりのプラスチック濃度をマイクログラム単位で測定したところ、各プラスチックの合計濃度は一人あたり最大12程度、平均1.6となった(測定データにはかなりばらつきがある)。22人の被験者のうち、定量化限界以上の量が検出されたのは、PET11人、ポリスチレン類8人、ポリエチレン5人、ポリメタクリル酸メチル1人で、ポリプロピレンは検出されなかった。
 プラスチックの侵入経路は明らかでないが、食品や水道水に含まれていたものが経口摂取され腸上皮で吸収されたか、浮遊していた微粒子が肺に入り込んだ後に飲み込まれたと推測される。皮膚から吸収された可能性は小さい。
 血液中に存在するマイクロプラスチックが健康被害をもたらすかどうかは、はっきりしない。しかし、PCBやDDTなどのPOPs(残留性有機汚染物質)やアスベストのように、当初は顕著な毒性が認められなかったにもかかわらず、長期にわたって体内に蓄積されるうちに悪影響が表面化したケースは少なくない。潜在的なリスクとして、集中的な研究を続けるべきだろう。


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遺伝子操作ブタの心臓を人間に移植(22/01/14) [ニュース]

 米メリーランド大学は、拒絶反応が起きないように遺伝子操作したブタの心臓を、不整脈で入院中だった57歳の男性に移植したと発表した。末期的な病状でヒトからの心臓移植が行えず、患者本人も実験的医療であることを了承していたため、米食品医薬品局が人道的措置として承認前の医療技術使用を認めたという。
 移植医療はかなり広く行われているものの、移植用臓器が絶対的に不足しており、多くの患者が手術を受けられないまま死亡する。代わりに動物の臓器を移植するというアイデアは古くからあったが、免疫抑制剤でコントロールできないほど強い拒絶反応が起きるために、これまでの移植治療はほぼすべて失敗に終わった。しかし、近年になると、拒絶反応の原因となるタンパク質の発現を遺伝子操作によって抑制することが可能になりつつある。中でも、ブタの心臓や肝臓は大きさが人間のものに近いため、移植できるという期待が高まっており、ブタの腎臓をヒトの脳死体に移植する実験も行われた。今回のケースでは、10箇所の遺伝子を操作して拒絶反応を抑制した。
 ただし、拒絶反応以外にも難しい問題がある。最大の課題は、動物が保有するバクテリアやウィルスの感染をいかに防ぐかである。臓器のドナーとなる動物は、一般に誕生時から無菌室で育てられており安全性は高いが、ブタの場合、細胞内に親から受け継いだ病原体を保有しており、バイオハザードを確実に防げるとは限らない。新型コロナやインフルエンザなど、これまで動物から人間に感染した病気が深刻な被害をもたらした事例は少なくないため、慎重な対策が必要となる。

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