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量子もつれ研究にノーベル賞(22/10/10) [ニュース]

 2022年のノーベル物理学賞は、量子もつれに関する実証実験と理論研究を行ったアラン・アスペ、ジョン・クラウザー、アントン・ツァイリンガーが受賞した。
 量子もつれとは量子論特有の長距離相関で、基礎物理学的にも情報通信分野での応用(例えば、盗聴を検出する技術の開発)においても、興味深い現象である。簡単に説明することはできないが、ごく大雑把に言えば、特定の量子論的状態にあったものが、2つに分裂して互いに遠ざかったとき、それぞれを測定した結果に、古典論では説明が困難な相関が生じるという現象。1935年にアインシュタインらが思考実験によってその可能性を示し、1964年にJ.S.ベルによって、相関の存在を検証する実行可能な方法が提案された。この提案によれば、ある実験で量子論が予想するとおりの結果が得られた場合、「局所実在論などいくつかの仮定を置くと、古典論では説明がつかない」ことが示される。
 今回受賞した3人は、それぞれ共同実験者とベルの提案に基づく実験を(可能な抜け道を防ぐ工夫を凝らした上で)行い、量子もつれと呼ばれる長距離相関が現実に存在することを確実にした。
 もっとも、量子もつれに関しては多くの誤解があり、物理学者ですら解釈を誤っている場合があるので、注意を要する。以下、代表的な誤解を列挙する(1~4は多くの物理学者が指摘する一般的な見解。5は吉田の個人的な見解である)。

[誤解1]量子もつれの存在は、1回の実験で明らかにできる。
 →量子もつれは、統計的な現象である。何度も実験を行って多数のデータを集め、相関関数という統計的な量にまとめて、はじめて存在が確認できる。このことは、アインシュタインらの論文が出た翌年にファリーが指摘し、ボームが具体的な実験方法を論じた。
[誤解2]量子もつれは、2つに分かれた対象を、それぞれ特定の方法で測定すると明らかにできる。
 →2つに分かれた対象を特定の方法で測定しただけでは、量子もつれの検証にならない。2つに分かれた対象の一方に対して、さらに測定方法を切り替えて結果を求める必要がある。このことは、ベルの論文で指摘されている。
[誤解3]量子もつれの実験では、分裂した対象に対する2つの測定のうち、先に行われた測定の結果が、後から行う測定に影響を与える。
 →2つの測定を同時に(相対論の知識のある人は「光円錐の外側で」と言った方がわかりやすいだろう)行う実験が遂行されており、測定の先後関係が結果に影響を与えないことは確認されている。
[誤解4]量子もつれは、分裂した対象が超光速で情報を交換した結果として生じる。
 →場の量子論では、超光速での情報交換が禁止されている(光円錐の外側では伝播関数が値を持たない)。また、超光速で情報交換ができるならば、量子もつれを利用した超光速通信が可能なはずだが、そんな技術は開発されていないどころか、実現の見通しすらない。
[誤解5]量子もつれの存在によって、実在論が否定される。
 →量子もつれの起源は、状態を表現するための基底ベクトルが(座標表現と運動量表現のように)複数存在することにある。ある基底ベクトルの表す状態が実在的でない(例えば、電子が特定の1点に実在するのではない)ことは、さまざまな実験結果から明らかである。しかし、量子もつれの議論で使われる基底ベクトルは、(座標や運動量の表現にせよ電子スピンのup/downにせよ)非相対論的な近似でしかなく、そうした基底ベクトルが実在的でないからと言って、実在論そのものが否定されるわけではない。


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