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ALS患者嘱託殺人で逮捕者(20/07/28) [ニュース]

 京都府警は今月23日、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者に対する嘱託殺人の容疑で、医師2人を逮捕した。安楽死を希望するALS患者から依頼され、昨年11月に薬物を投与して殺害したとされる。容疑者は患者の担当医ではなく、SNSで知り合った後、金銭の支払いを受けて患者の自宅マンションで投薬を行ったようだ。
 ALSとは、運動ニューロンの障害によって筋肉がしだいに動かなくなる難病で、患者は全国で1万人ほどに上る。多くの場合、手指が動かしにくいなどの軽い症状から始まり、そのまま一方的に進行して全身の筋肉が侵され 、最終的には呼吸筋が機能しなくなって呼吸不全で死に至る。ただし、感覚や思考、内臓機能は保たれ、眼球運動も可能だという。原因は不明で、進行を遅らせる薬はあるが、根本的な治療法はまだない。
 ALSのように精神的苦痛が大きく、また、周囲に負担をかけているという自責の念をもたらす病気の場合、患者が鬱状態になり希死念慮を抱きやすい。このため、精神的なカウンセリングが欠かせず、担当医による適切な対処が必要である。
 現在では治療法のない病気でも、画期的な技術が開発される可能性がある。実際、かつて不治の病と恐れられたAIDSは、ウイルスの増殖を抑制する薬が開発されたことで、(完治は難しいものの)長期にわたり寛解状態を保てるようになった。ALSの場合は、嚥下障害や呼吸困難に対応できる看護機器の開発が望まれる。
 今回のケースは、「積極的安楽死」と呼ばれる行為に相当し相当し、終末期医療で不必要な延命行為を行わないという消極的安楽死(尊厳死)とは峻別される。消極的安楽死なら、日本でも、医療現場でかなりの数が実施されていると思われる。一方、積極的安楽死は、原則的に刑法上の違法行為と推定され、1件1件、法的な観点から(通常は裁判の場で)検討される。担当医以外が致死的な投薬を行ったことが事実と認定されれば、嘱託殺人の罪は免れないだろう。


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来月からレジ袋有料化(20/06/27) [ニュース]

 7月1日から、経済産業省主導でレジ袋有料化が実施される。これは、商品を運ぶための持ち手がついたプラスチック製買い物袋の無料配布(価格1円未満を含む)を禁止するもの。制度の対象外となるのは、繰り返し使用できる厚さ50μm以上、生分解性プラスチックの配合率100%、または、バイオマス素材の配合率25%以上のレジ袋だけである。
 この制度を環境対策の一環と見なす向きも多いが、実際には、環境被害を軽減する効果はあまりない。これまでレジ袋の有料化・禁止を積極的に推し進めてきたのは、ケニアやバングラデシュなどアフリカや南アジアの国々が多く、主に、都市部で放出されたレジ袋で下水が詰まるのを防ぐための施策である。日本では、商品の運搬に利用されたレジ袋は家庭でゴミ袋として活用されるのが一般的であり、環境被害につながるものはごく一部でしかない。レジ袋有料化は、ネット通販の普及で売上減少に苦しむ小売店を支援する制度だと考えるのが妥当だろう。
 ただし、環境問題の知識が乏しい子供を啓蒙するきっかけになるので、間接的に環境被害の軽減につながるかもしれない。
 プラスチックによる環境被害を減らす上で最もパワフルな施策は、リサイクル法の拡充である。この法律が効果的なのは、製品設計に直接関わるメーカーが対策を検討するからだ。
 例として、家電リサイクル法を挙げたい。この法律の施行(2001年)により、使用を終えた洗濯機がメーカーに戻されることになった。その結果、メーカーは、以前のようにただ頑丈に作るのではなく、数本のネジを外すだけでポリプロピレン製の洗濯槽が簡単に分離できるように設計を変更。汚れの種類は容易に特定できるので専用洗剤によって洗浄し、その上で破砕してリサイクルに回すようにした。使用するプラスチックの種類を減らすことも、回収後の処理を容易にする。このように、設計段階から「リサイクルしやすい製品」にしておくと、リサイクル効率が格段に高まる。
 プラスチックは、加工段階で加えられるさまざまな添加剤が不純物となるため、マテリアルリサイクルが難しい。リサイクルできるのは、同種のプラスチックが大量に集まる場合だけである。リサイクル法で道筋をつけることにより、ポリスチレン製のトレーや発泡スチロール製の緩衝材などをまとめて回収すれば、(ポリプロピレン製の洗濯槽やPET製容器と同様に)化学的な処理が可能になる。それができない雑多なプラスチックは、燃料・助燃剤として燃やしてしまうのが、化学汚染を減らす上で最もマシなやり方である。雑多なプラスチックの使用に対しては、リサイクルよりもプラスチック税を課すことを考えた方がよい。
 残念ながら、こうした効果的な環境対策を導入しようとすると、業界団体が猛烈に反対するため、レジ袋有料化のようにすんなりとはいかない。2013年施行の小型家電リサイクル法は、「メーカーが製品回収の義務を負う」というリサイクル法の基本理念が省かれ、あまり効果のない骨抜き法にされた。

【補記】筆者は、月5回ほどスーパーで、月1回ほど大型安売り店で買い物をしており、コンビニは(宅配便を送るとき以外は)利用しない。消費財は、ストックがなくなる数週間前からスケジュールソフトに記入し、必要なものを計画的にまとめ買いするので、常に大型レジ袋が満杯になる。これらのレジ袋はゴミ袋として使用しており、ほとんど無駄にならない。ただし、年間を通してもらったレジ袋の1割ほどが余るので、もらう枚数を少し減らそうと考えている。スーパーでは大型レジ袋の価格が1枚5円になるが、市販のゴミ袋はこれよりやや高い。レジ袋の仕入れ価格はおそらく1枚2円以下だが、客に渡す手間などを考えると5円は納得の価格なので、今後はスーパーで有料レジ袋を購入し、大型安売り店では、スーパーのロゴ入りレジ袋を使い回す予定である(嫌な顔をされる気もするが)。

新型コロナ、残る謎多く(20/06/04) [ニュース]

 新型コロナウィルス感染症(正式な病名はCOVID-19、ウィルス名はSARS-CoV-2;ここでは「新型コロナ」と呼ぶ)は、日本では流行の峠を越えたようだが、ブラジルやイランではまだ流行が続いており、予断を許さない。現時点での国内の状況は、PCR検査実施人数30万人(空港検疫等を含む)に対して陽性者数1万7千人、重症者101人、死亡者900人(最後の2つは厚生労働省が発表した2020年6月2日現在の数値)となっている。
 今回の新型コロナ・パンデミックに関して、3つの論点を取り上げよう。

(1) 国によって感染率・致死率に大きな差があるのはなぜか?
 新型コロナにまつわる最大の謎は、欧米と東アジアでは、まるで別の病気であるかのように差が生じたことである。ヨーロッパや南北アメリカの場合、人口100万人あたりの死者が軒並み100人を大きく超える。欧州で最初に被害が拡大したイタリアでは人口100万人あたり554人(厚労省発表の6月2日時点での死者数をWikipediaに掲載された人口で割った値)、コロナ対策の優等生とされるドイツでも103人なのに対して、中国3.2人、韓国5.3人、日本7.1人と桁違いに少ない。この理由が解明されない限り、今後の対策を立てようがない。思いつく理由としては、次のようなものがある。

データの誤差が大きい:日本ではウィルス感染の有無を確認するPCR検査が充分に行われておらず、感染者数の見積もりが実態より大幅に少ないと推測される。新型コロナによる肺炎は、他の呼吸器疾患と明確な差違がなく、高齢者など免疫機能が衰えて高熱・呼吸困難などの症状が現れない患者は、コロナの死者に分類されない可能性が高い(肺炎による高齢者の死は、昔は往々にして“老衰”とされ、現在でも、多臓器不全という曖昧な死因が診断書に記入されるケースが少なくない)。欧米では、たとえ最終的な死因が細菌性肺炎であっても、そこに至る過程でインフルエンザ・ウィルスに感染していた場合はインフルエンザ関連死に分類されることが多い。こうした違いによって、日本と欧米で死者数の割合が異なったのかもしれない。しかし、この理由付けでは、きちんと検査を行っていたドイツと韓国の差が説明できない。
欧州に伝播する過程で強毒化した:コロナウィルスは、頻繁に突然変異を起こすことが知られている。新型コロナの場合も、何千人もの患者から集めたウィルスのゲノム解読により、塩基配列に100箇所以上の変異が起きたことが判明した。1月中旬に中国・武漢から世界各地に伝播したウィルスは、1月下旬から2月上旬に欧州型に変異してヨーロッパで猛威を振るい、さらに、アメリカに渡って米国型に変異した。遺伝子変異によってウィルスが強毒化したため、中国で封じ込めに成功したと思われた矢先、イタリアやイランで感染爆発が起きたと解釈することもできる。ただし、こうした遺伝子変異が強毒化をもたらしたという医学的な証拠はなく、東アジアに米国型や欧州型が逆輸入され感染爆発を引き起こすことがなかった理由も判然としない。
遺伝子や風習の民族差が感染率の違いを生んだ:ヒトゲノムには塩基配列が1ないし数箇所だけ異なる多型があり、その割合は民族ごとに違っている。このため、アジア人に多く見られる遺伝子型が、感染率や致死率の低さをもたらした可能性はある。免疫細胞から分泌されるサイトカインの遺伝子にアジア独自の変異があり、そのせいで感染率が低くなったという説もある。もっとも、遺伝子のタイプが日本や中国とかなり異なるインドでも、100万人あたりの死者数は5人程度と少なく、遺伝子の違いだけでその差を説明することはできない(インドのデータが信用できないのかもしれない)。
 結核の予防ワクチンであるBCGの接種が、新型コロナの感染を防止するという見方もある。BCGを定期接種する国(日本、中国、韓国、香港、シンガポールなど)と、そうでない国(イタリア、スペイン、アメリカ、フランス、イギリス)で感染率が大幅に異なることが、その根拠とされる。ただし、イスラエルの研究チームによる調査結果は、この説と相容れない。イスラエルでは、1982年までBCG接種率が90%以上あったが、82年以降は結核流行地からの移住者だけに接種するようになった。そこで、出生が82年の前か後かで新型コロナ感染率が調査されたが、有意差は見出されなかったという(ただし、82年以降生まれでも、出生国でBCG接種されたかどうか確認できないケースもあり、確実な結果とは言えない)。このほか、握手やハグといった身体接触を伴う風習の有無が感染率の違いをもたらしたと主張する人もいるが、イタリアとイランで同時期に類似したパターンで感染爆発が起きた理由が説明できない。

(2) どの対策が有効だったのか?
 感染拡大を左右するのが、実効再生産数である。これは「1人の感染者による2次感染者数」を表す数で、感染対策や集団免疫などの状況に応じて変動するため、理論的には決定できず、感染者数の変動を調べることによって求められる。感染者は、免疫獲得によるウィルス消滅、または隔離・死亡などによって感染力を失うため、実効再生産数が1以下ならば感染者数は減少する。
 ヨーロッパでは実効再生産数がかなり高く、積極的な対策が奏功したとされるドイツですら、初期には4を超えていた。一方、東京都の場合、新型コロナウィルスが伝播してから暫くは、実効再生産数が1から3の間で上下していたが、3月25日に小池都知事が「感染爆発の重大局面」として自粛を要請してから減少傾向が顕著となり、4月1日頃に1以下となって感染爆発の危険が去った。4月7日に政府が発令した緊急事態宣言の効果は、それほど大きくなかったようである。
 新型コロナに対して政府や自治体、個人レベルでさまざまな対策が講じられたが、どれが有効なのかはいまだはっきりしない。今後、対策の実施と感染拡大の状況に関する精細なデータ分析が進むと、有効性の高い対策が明らかになると期待されるが、ここでは、(かなり杜撰な)推測を試みる。

何らかの政治的対策は必須:積極的な政策を実施しなかった国に、スウェーデンがある。スウェーデンは、緩やかな感染増大によって集団免疫が獲得できるとの見通しから、ロックダウンや休校、感染者の隔離を政策的に行わず、外出を控えるといった国民の自主的な対応に委ねた。結果的に、人口100万人あたり死者数は445人で、イギリス、フランス、イタリアよりは少ないが、アメリカより3割以上多く、ドイツの4倍以上、周辺北欧諸国の数倍~10倍となり、コロナ対策に失敗したと批判されている。
PCR検査の有効性:PCR(Polymerase Chain Reaction)検査とは、ウィルス遺伝子を増幅して検出する方法で、鼻・喉・唾液などから検体を採取して調べる。採取部位に充分なウィルスがあれば精度は高いが、実際には、感染してからしばらくの間はウィルス量が少なく、しばしば偽陰性となる。感染4日では3分の1が偽陰性というデータもあるが、採取部位・採取方法による差違が大きく、精度何パーセントと確定できない。
 PCR検査を行う際に注意すべきなのは、何のための検査かを明確にすること。新型コロナの場合、高齢者・基礎疾患保因者以外は重症化率が低いため、陽性判定が出ても、自宅待機が指示されるだけで入院治療は行わないのがふつうである。このことを周知徹底させなければ、治療してくれると誤解した人が殺到し、検査機関がクラスター源となってしまう。
 検査が比較的うまくいったのがドイツで、1月には新型コロナウィルスの検査方法を開発、2月中旬までにPCR検査を大規模実施する体制を整えた。多数の市民を組織的に検査し、陽性判定の人を自宅に待機させる方策を実施することで、高齢者など高リスク者への感染を防いだ。PCR検査数だけ見ると、ヨーロッパではドイツとイタリアが多い(4月中旬まで共に150万件前後)が、致死率(感染者が死亡する割合)でドイツはイタリアの3分の1程度であり、検査数だけでなく検査後のケアが重要であることがわかる。
有効だった政策:さまざまな政策が相次いで実施されたため、各政策の有効性が必ずしもはっきりしない。各国の対策実施時期と感染者数の推移を示すグラフを見ると、大規模イベントの中止が発令された後で感染者数がはっきりと減少しており、それに比べると、ロックダウンや休校は効果に乏しいように見える。しかし、どの対策でも、効果が現れるにはタイムラグがあるため、軽々に結論を出すべきではないだろう。
有効だった個人的対策:新型コロナの感染経路は主に飛沫感染と接触感染であり、この2つを防げば高い確率で感染が防止できる。接触感染に対しては、手洗いが有効。飛沫感染の防止は、人混みを避けるのが最も効果的だが、物理的間隔の確保やマスクの使用も効果がある。
 医学誌ランセットのレビュー(D.K.Chu et.al, June 01, 2020)によると、新型コロナをはじめ、SARSやMERSなどコロナウィルス感染症に関する172の研究を分析した結果、物理的間隔を1メートル開けると、近接した場合に比べて感染リスクが有意に減少するという。2メートル離れると、さらにリスクが低下する。マスクに関しては、N95マスク(米国労働安全衛生局認定マスクで、0.3μm以上のNaCl結晶捕集効率が95%以上)の効果が大きいが、それ以外のフェイスマスク(医療用使い捨てマスク、再利用可能な12~16層のコットンないしガーゼマスク)でも、ある程度の効果が認められた。

(3) 今後はどうなるのか?
 新型コロナを撲滅することは、現実問題として不可能と思った方がよい。ワクチンの開発には、少なくとも数年を要するし、コロナウィルスはインフルエンザウィルスと同様に頻繁に遺伝子変異を起こすので、有効性は限定的である。治療薬の開発は、望み薄である(開発できるならば、風邪の治療薬が市販されているはずである)。
 もっとも、むやみに恐れる必要はない。新型コロナは、インフルエンザに比べて感染率が高いために世界的流行になったが、50歳以下の健常者の致死率は必ずしも高くない(データが出そろっていないので確言はできないが、アメリカ疾病予防管理センターの発表などによると、おそらく0.1%以下)。今後は、コロナと共存しながら少しずつ集団免疫を獲得し、ふつうの風邪と同程度のリスクになるのを待つだけである。
 新型コロナに対する高リスク者は、高齢者と基礎疾患(糖尿病、心臓病、COPD、ガンなど)の保因者で、致死率は50歳以下の健常者と比べて数十倍以上になるので、流行中は感染者との接触をできるだけ避けるようにする。
 重要なのは、今回のケースが、起こり得るパンデミックとしては小型だったという点である。今世紀中に、新型コロナを超えるパンデミックが勃発する可能性はかなり高い。今回の教訓を元に、どのような対策を実施すれば被害を最小限に食い止められるか、充分に考えて準備を整える必要がある。

新型肺炎騒動、続く(20/02/09) [ニュース]

 新型コロナウィルスによる肺炎の流行は拡大を続け、それとともに報道が過熱の一途をたどっている。
 コロナウィルスは、電子顕微鏡で見たときの形状がコロナを伴った太陽に似ていることから名付けられたウィルスで、通常の風邪の3分の1程度がコロナウィルスによる。重症化しやすい新型のコロナウィルスとしては、2003年に中国やアジア各地で広まり800人近くが死亡したSARSと、2012年にサウジアラビアで確認され少なくとも850人が死亡したMERSが知られている。症状が出た感染者は、SARSで8000人、MERSで2500人とされるが、実際には、それより遥かに多くの感染者が存在したと考えられており、死亡したのは、大半が高齢者や重篤な持病を抱えていた者。
 コロナウィルスの感染経路は、接触感染(感染者からのウィルスが付着したドアノブなどに触れ、その手で目口鼻の周囲に触ることでウィルスが侵入する)と飛沫感染(咳やくしゃみによって飛び散ったウィルス入りの飛沫が直接体内に入る)が主なもので、空気感染(空気中に漂う微粒子に付着したウィルスから感染する)のリスクはほとんどない。
 新型肺炎を防ぐ最善策は、人混みを避けること。感染者から2メートル以上離れると、飛沫感染の危険性は低くなる。次いで、手洗い・うがい・マスクといった対策が考えられる。
 接触感染を防ぐためには、手洗いが効果的。うがいが新型コロナウィルスに対して有効かどうかは確認されていないが、通常の風邪の予防にもなるので、励行するのが好ましい。マスクに関しては、医学的なエビデンスがないという理由から推奨しない医師もいるが、エビデンスがないのは、マスクのメーカーに中小企業が多く、多額の費用がかかる有人実験(複数のボランティアをマスク着用と非着用の2グループに分けてウィルスを何カ所かに散布した施設で生活してもらい、感染率や症状の重さを比較する)が充分に行われていないためと推測される。鼻梁から顎までを不織布でしっかりと覆うマスクの場合、病原体で汚染された手指が口や鼻に直接触れるのを妨げるので、感染リスクを何パーセントかは低減する効果があるはず(もちろん、マスクをすれば安心というわけではなく、マスクの下から指を突っ込んで鼻をほじったりするとぶち壊しである)。
 新型コロナウィルスの感染率はSARSよりも低いと言われており、注意を要するもののむやみに恐れる必要はない。むしろ、日本だけで毎年1000人を超える死者を出しているインフルエンザの方が恐ろしい。1000人というのは死因として報告された数であり、関連死を含めると、インフルエンザがもたらす死亡数は年によって数万人に達すると言われる。折しも、現在、米国ではインフルエンザが大流行中であり、死者数(日本とはカウントの仕方が異なることに注意)が1万人を超えたとの報道もある。
 疾病対策には、まず科学的な知識と正確な情報を身につけることが重要である。


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ChromeでサードパーティーCookieをブロック(20/01/19) [ニュース]

 Googleは、同社製のWebブラウザChromeで、サードパーティーCookieに対する制限を段階的に強化する方針を明らかにした。まず、2月リリース予定のChrome80において、安全性の条件を満たしていないサードパーティーCookieをデフォルトでブロックする設定に変更、さらに、2022年までに、これを利用したデータの外部提供を取りやめるという。
 Cookieとは、ブラウザでネット上の情報にアクセスする際に、閲覧者のPCやスマホに作られるファイル。「どのページにアクセスしたか」などの情報が記載されており、この情報をサイトに送信することで、例えば一度パスワードを入力すれば、同じサイト内でページを移動しても、繰り返しパスワードを入力する必要がなくなる。サードパーティCookieとは、現に閲覧しているサイト以外に情報を送信するためのもの。閲覧したWebページに広告が掲載されていると、広告元のドメインに結びつけられたCookieが発行され、その広告をクリックしたかどうかが広告主などに知らされる。広告主からすると、どのページに掲載された広告が役に立ったかわかるので、効率的な広告を打ちやすくなる。
 ネットを閲覧する側からすると、サードパーティーCookieを通じて、閲覧履歴などの個人情報が自分のあずかり知らぬところに送信されることを意味する。この仕組みがプライバシー保護の上で好ましくないとの観点から、AppleとMozillaは、すでにそれぞれのブラウザ(SafariとFirefox)においてデフォルトでサードパーティーCookieをブロックする設定に変更していた。一方、広告の売り上げが最大の収入源であるGoogleにとって、Cookieを用いた情報収集は生命線のはず。Cookie以外のデータソースを開発するのか、外部提供はやめて自社に情報を集中させるのか、どのような方途を採用するか注目したい。

【補記】ちなみに、筆者(吉田)が使用するブラウザは、Chromeよりもセキュリティ対策がしっかりしているFirefoxで、信頼できるいくつかのサイト以外では、すべてのサードパーティーCookieをブロックする設定。また、毎日PCをシャットダウンする際、信頼サイト以外のドメインを持つCookieを全消去する(Ccleanerを利用)。検索やマップにはGoogleを利用するものの、Googleアカウントでのログインはしない。受信専用のGmailアドレスを持っているが、受信するとき一時的にログインするのみ。うっかりログアウトし忘れたときに備えて、すべてのアクティビティを一次停止にしてあり、もちろんカレンダーやストレージも利用しない。同様にマイクロソフトがらみの設定でも、メインマシンはローカルアカウントのみ、Windowsのプライバシー設定では、診断データの送信や履歴の保存など、情報を外部に流す出口になりそうなほぼすべてをオフにしている。


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箸墓古墳をミューオンで透視 [ニュース]

 奈良県立橿原考古学研究所は9日、おととし12月から宇宙線起源のミューオンを利用して、纒向遺跡の中にある箸墓古墳の内部調査を実施中であることを明らかにした。
 箸墓古墳は、全長280メートルの前方後円墳で、炭素14を用いた年代測定により、3世紀中頃から後半に建設されたと推定される。これが卑弥呼の死亡時期(248年頃)に近いことから、卑弥呼の墓という説もあるが、確証はない。宮内庁が陵墓(皇族を葬った墳墓)として管理しており発掘ができないため、ミューオン調査が行われることになった。
 ミューオンとは、相互作用の性質が電子とよく似た素粒子だが、質量が電子の200倍あり、軽くて散乱されやすい電子と異なって、物体を透過する力が大きい。宇宙線(宇宙から飛来する高エネルギー粒子のビーム)との相互作用によって大気上層部で生成され地表に降り注いでくるミューオンは、途中に物体があっても、厚さや密度に応じた割合で通り抜けることができる。この透過ミューオンを背後に置いた観測装置でキャッチすれば、ちょうどレントゲン写真のように、物体の内部構造がある程度判明する。
 ミューオンを用いた観測が威力を発揮したのが、2015年から行われたピラミッドの内部調査で、石材が充填されていると仮定したシミュレーションよりも有意に多いミューオンが検出されたことから、大回廊上部に空洞が存在すると結論された。このほか、火山内部のマグマや事故を起こした福島第一原発の状況を調べるのに、宇宙線起源のミューオンが活用されている。
 今回の調査結果は、2020年度に公表される予定だが、棺を納めた石室の状況がわかれば、被葬者を推定する手がかりになるかもしれない。


【補記】筆者(吉田)は、3世紀の日本には、九州の倭と近畿のヤマトという2つの国が併存していたという見解を採用しており、箸墓古墳が卑弥呼の墓だとは考えていない。倭が、馬韓(後の百済)を介して帯方郡と連絡を持ち、魏志東夷伝に記載されるに至ったのに対して、ヤマトのルーツである伽耶は外交ベタで周辺諸国との人的交流に欠けていたため、中国の史書にヤマトの名が載らなかったのだろう。


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"2019 Breakthrough of the year"にブラックホール撮影(19/12/27) [ニュース]

 米Science誌が選ぶ"2019 Breakthrough of the year"は、大方の予想通り、「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)」による超巨大ブラックホールの撮影となった。地球から5500万光年彼方にあるM87銀河の中心に位置するブラックホールは、太陽の65億倍の質量を持つ巨大な天体だが、その強大な重力によって光の放出すら許さない。このため、周囲の降着円盤が発するX線の観測しかできないと思われていた。ところが、EHTチームは、地球上の各地に設置された天体望遠鏡のデータを組み合わせることで仮想的な干渉計を構成し、ブラックホールの重力で屈折した光による像の撮影に成功した(詳しい解説は、ホームページに掲載した過去の「気になるニュース」参照)。
 このほかの"breakthrough"は、以下の通り。
  • デニソワ人の解明:16万年前に生息していたデニソワ人に関して、骨から抽出したコラーゲンやDNAのメチル化を調べることで、その生態が明らかにされつつある。
  • 量子超越性を達成か(過去の「気になるニュース」に掲載)
  • 微生物を利用した発育不良の改善:腸内細菌の増殖を促すサプリメントを使って栄養状態を改善する研究が、少数の子供を対象とする臨床試験によって進められている。
  • 大絶滅からの回復:6600万年前に恐竜を絶滅させた小惑星の衝突によって、ユカタン半島にChicxulubクレーターが形成された。このクレーター付近の掘削を行い花粉や動植物の化石を分析したところ、生態系の回復は予想外のスピードで進んだことがわかった。衝突後1000年以内にヤシがシダに取って代わり、有孔虫(殻を持つプランクトンの一種)は衝突後3万年以内に回復したという。
  • カイパーベルトの探索: NASAの宇宙船"New Horizons"は、海王星以遠の小惑星帯を観測、2つの小惑星が合体した形をした天体Arrokothなどを発見した。
  • 真核生物の起源に新説:日本の研究チームは、深海堆積物から採取した古細菌のゲノムを解析し、真核生物(細胞核がある生物)のみが持つと考えられていた遺伝子を見出した。生物界は、古細菌-細菌-真核生物の3種類から構成されるというのが定説だが、今回の発見は、真核生物が古細菌のサブグループである可能性を示唆する。
  • 嚢胞性線維症の治療法承認:2つの遺伝子異常によって発症する難病・嚢胞性線維症に対する新しい治療法Trikaftaが承認された。これは、3つの薬剤を組み合わせたもので、患者の90%で症状の改善が見られた。ただし、年間30万ドル以上のコストがかかるという。
  • エボラ出血熱の治療薬開発:エボラ出血熱を治療すると期待される2種類の薬が開発された。生存した感染者から分離した抗体、および、遺伝子組み換えマウスが産生した3種類の抗体の混合物で、いずれかを投与された患者の70%が死を免れた。
  • ポーカーでもAIが勝利:ポーカーは、相手の札を見ることができず情報が限られるため、推理能力に長けた人間が有利とされる。しかし、新たに開発されたAIプログラムを用いると、6人のプレーヤーが参加するゲームでも、AIの平均勝率がトッププレーヤーを上回るというシミュレーション結果が得られた。
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